多様体と幾何学

松本『多様体の基礎』から始めて、松島『多様体入門』、志賀『多様体論』まで、制覇します。

解析入門Ⅰ(その8)

 現在2023年5月1日10時59分である。(この投稿は、ほぼ6204文字)

麻友「午前中から始めるのは、珍しいわね」

若菜「もう成果を挙げているのですよね」

結弦「成果って?」

私「以前、『力学』のブログで、☞ ✍ という記号を、コピペで、入力したと、自慢したが、如何せん、記号が小さかった。それを、今日、文字拡大を行ったら、こういう風に、大きく出来たんだ。 と、 だよ」

麻友「時間が解決してくれた。大江さんの括弧ね」


私「さて、麻友さんと知り合って、8年。いつか、群について話す日が来るだろうと思っていた。『解析入門Ⅰ』の説明は、簡単だが、免疫のない麻友さんには、分からないだろう」

麻友「群論の本格的な講義をするの?」

私「そんなつもりはない。だが、疑問が残らないように、親切に説明する」

若菜「他の本を、参照する?」

私「

の、2冊を利用する」

麻友「『数学基礎概説』が、必要?」

私「普通の群論の本だと、漠然と残る、疑問がある。それに、『数学基礎概説』が、応えてくれる」

結弦「じゃあ、始めて」


私「まず、群というものを、定義する。


*******************************

 一般にある対象の集まり {G} に対し,その個々の対象を {G} の元または要素とよぶが,このとき {G} に関する群の概念は普通次のように定義される.

(1) {G} の任意の2元 {a,b} に対し、{a \circ b} で表される {G} の元({a,b}とよぶ)を一意に対応させる演算 {\circ} があり,

(2){G}単位元とよぶ特定の元 {e} があり,

(3){G} の任意の元 {a} に対し {a^{-1}} で表される {G} の元( {a}逆元 とよぶ)を一意に対応させる演算 {{}^{-1}} があり,これらに関して次の性質(公理とよぶ)が成立するとき,{G} は、{\circ} を乗算,{{}^{-1}} を逆元演算,{e}単位元とするをなすという.

 公理 {\mathrm{G1}}  {G} の任意の3元,{a,b,c} に対し,{(a \circ b) \circ c = a \circ (b \circ c)}結合法則

 公理 {\mathrm{G2.1}}  {G} の任意の元 {a} に対し,{a \circ e =a}  (右単位元の存在)

 公理 {\mathrm{G2.2}}  {G} の任意の元 {a} に対し,{e \circ a =a}  (左単位元の存在)

 公理 {\mathrm{G3.1}}  {G} の任意の元 {a} に対し,{a \circ (a^{-1}) =e}  (右逆元の存在)

 公理 {\mathrm{G3.2}}  {G} の任意の元 {a} に対し,{(a^{-1}) \circ a=e}  (左逆元の存在)

 ただし,等式は {=} の左辺と右辺の式の表す {G} の元が同一であることを意味する.


                               定義終わり

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                     (『数学基礎概説』p.1 より一部改変)

説明の都合上、逆元より先に、単位元を、持って来た」

麻友「今まで、8年間。太郎さんには、ビックリさせられ続けてきた。これも、その1つなんだろうけど、こんなの、全然分からないわよ」

結弦「取っ掛かりは、逆元かな? 逆数のことかも」

若菜「右とか、左とか、どういうことなんでしょうね」

麻友「そもそも、演算って何よ? {a \circ b} って、なんて読むの?」

私「それね、分からないんだ。私は、『エイまるビー』って、読んでたけど、困らなかった」

若菜「{g \circ f} は?」

私「写像の場合は、『じーコンポジッションえふ』と、読むんだけどね」

麻友「{a^{-1}} は?」

私「それは、『えいインバース』」

結弦「そもそも、群って、どんな形、してるの?」


私「群というのは、色々なものの、特別な性質だけを、抽出したものなんだ。具体的には、例えば、実数全体に、掛け算という演算を与えたもの。ただし、{0} では割れないから、{\mathbb{R}-\{0\}} と、{0} を、どける」

麻友「{\mathbb{R}-\{0\}} で、例えば、{3,5,7 \in \mathbb{R}-\{0\}} よね。それで、{3 \circ 5 = 3 \times 5 =15} で、{15 \circ 7 =15 \times 7 =105} となる。一方、{5 \circ 7  =5 \times 7 = 35} で、{3 \circ 35 = 3 \times 35 =105} だから、{(3 \circ 5) \circ 7 =105=3 \circ ( 5 \circ 7 )} となって、結合法則{(3 \circ 5) \circ 7 =3 \circ ( 5 \circ 7 )} が、成り立ってる。こういうこと?」

私「そう。そういうこと」

結弦「この場合、掛け算が、演算なんだ」

若菜「中学のときとかに、『結合法則が、成り立ちますよ』って、教わって、何に使うのか、分からなかったけど、実数の掛け算が、群になるということを、いつか気付かせるためだったんですね」

結弦「交換法則っていうのも、あった」

私「今、3人は、交換法則が、成り立たないものを、知るチャンスに、遭遇している。まず、実数は、掛け算に関して、交換法則が、成り立っていることは、良いだろうか?」

結弦「例えば、{4 \times 8 =32} と、{8 \times 4 =32} だ。大丈夫そうだよ」

私「高校で、習う範囲だから、麻友さんも、行列というものを、知っているかも知れない。一次変換(いちじへんかん)とも言う」

麻友「一次変換って、数学史を取ったら、最後から2番目の20世紀の数学で、出てきた。割り合い新しいものなのよね。ハイゼンベルグが、行列力学を作ったというのも、習った」

私「その通り。知っててくれると良いんだけどね。まず、丁寧に話すと、『1から始める数学(~その15)』で、{0} を作るとき、座標を使ったよね」

若菜「そうでしたね。{(12,3)} とか」

私「そう。それは、{2} 次元の座標だった」

結弦「一次変換では、座標を、縦に書くよ。{\displaystyle\left(
\begin{array}{c}
12 \\
3 
\end{array}
\right)} みたいに」

私「分かっているようだな。ところで、一次変換って、何を、変換するんだ?」

若菜「座標平面かしら?」

私「その場合もあるな。その場合、座標平面をどうするんだ?」

若菜「回転するとか」

私「おお、模範解答。優秀な大学に行かれるだけある」

麻友「座標を、回転するって?」

私「さっきの {\displaystyle\left(
\begin{array}{c}
12 \\
3 
\end{array}
\right)} を乗せた平面を、原点を中心に、例えば、{30} 度、時計回りに、回転するとか」

若菜「その場合、気を付けなければならないのは、ベクトルを、回転させるのか、座標系を回転させるのか、ですね」

結弦「ベクトルを回転させるのなら、


{\displaystyle \left(
\begin{array}{cc} \displaystyle
\cos{\displaystyle \frac{\pi}{6}} & - \sin{\displaystyle \frac{\pi}{6}}\\
\sin{\displaystyle \frac{\pi}{6}} & \cos{\displaystyle \frac{\pi}{6}}
\end{array}
\right)
}


だけど、座標系を回転させるのなら、

{\displaystyle \left(
\begin{array}{cc} \displaystyle
\cos{\displaystyle \frac{\pi}{6}} & \sin{\displaystyle \frac{\pi}{6}}\\
{}- \sin{\displaystyle \frac{\pi}{6}} & \cos{\displaystyle \frac{\pi}{6}}
\end{array}
\right)
}

だ。座標を固定しておいて、上に乗っているものを、動かすか、座標を記録する側を、動かすのか、で、プラスマイナスが、逆になる」

私「結弦も、進学校で、鍛えられている。その調子で、良いぞ」

麻友「私だけ、落ちこぼれ」

私「特待生が、何を言う。ここで、脱線してみようか」

麻友「どんな?」


私「私が、中学1年のとき、この本を読んでいた話はしたな」

若菜「あっ、私にくれた本」

私「そう。あれは、紹介の仕方が、悪かったね。『伯父さんが、中学1年で読んだ本だよ』と、言えば良かったのに、

を、持って行って、『このドイツ語の難しい本を、訳せるくらいの人だから、ちょっとくらい漢字の間違いがあっても、良いこと書いてあるよ』と、言ったのだったね」

若菜「本を渡すのは、難しい。結弦に、

と、6冊も渡したけど、結弦読む暇ない」

私「それは、申し訳なかった」

結弦「難し過ぎたんだよ」


私「さて、『数学がみえてくる』の第8章は、大学で習う、行列式の話だった」

麻友「あっ、相対論のブログの問題13だったわね」

27182818284590452.hatenablog.com


若菜「連立方程式

{\left\{
\begin{array}{l}
\displaystyle
ax+by=e\\
cx+dy=f\\
\end{array}
\right.
}

を解くのに、

{
\begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix} =ad-bc
}

と、定義すると良かった」

私「これで、私は、恥ずかしい思いをしたことがある」

結弦「お父さん、得意になると、とんでもないことを、やらかすからなあ」

私「私が、高校1年生で、妹が中学2年の頃、妹が、連立方程式を、習っていた。もちろん私は、2次の場合のクラーメルの公式を知っていた。それで、妹に、ちょっと知ったかぶりをしたんだよね。


私「それ、変数が、3個になっても、4個になっても、大丈夫な公式があるんだよ」

妹「4個って?」

私「例えば

{\left\{
\begin{array}{l}
\displaystyle
3x+2y+5z+w=7\\
6x+2y+3z+6w=2\\
x+9y+3z+2w=4\\
7x+3y+6z+4w=9\\
\end{array}
\right.
}

という場合、これが、パパパッと、解けちゃうんだ。と言ってから、

{
\begin{vmatrix} 
3 & 2 & 5 & 1\\
6 & 2 & 3 & 6\\
1 & 9 & 3 & 2\\
7 & 3 & 6 & 4
\end{vmatrix} =?}

を、たすき掛けにしようと、{3 \times 2 \times 3 \times 4=72} と、計算して、ハッと気付いた。次はどこを、動かせば良いのか? 妹は、


妹「あっ、これ問題が悪かったんだよ。太郎ちゃんが間違うわけないよ」


と言ってくれたが、宿題となった。やがて、高校2年で、『代数学辞典 下』の「続 代数学小史」で、江戸時代の日本の(天才)数学者関孝和(せき たかかず)が、4次の行列式の展開法を、世界で最も早く発見していたことを知った」

麻友「優しい妹さんね」

結弦「最終的解決は?」

私「大学に入って、線型代数の時間に、クラーメルの解法、一般の {n} 次の行列式の、ガウスによる掃き出し法を元にした解法を知って、相手が悪すぎたことを認識した」


麻友「妹さんへの償いの脱線だったのね」

私「そうなったな。ところで、今日は遅くなりすぎた。この続きは、次回にしよう。解散」

 現在2023年5月1日23時51分である。おしまい。